Contents :
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🎬 Introduction :
この間、彼女と『花束』を見に行ってきたんですよ。
先日の担当生徒(高2♂)との面談は、その一言から始まりました。
ガールフレンドと『花束』を見に出掛けたのは残念ながら筆者ではなく、彼の方なのですが。
彼には別の高校に通う彼女がおり、付き合い始めてまだ数ヶ月。いまが一番楽しいときで、面談の度にデートの報告をしてくれます。
というよりも、筆者が無理やり報告をさせています。この歳になると、若い学生の話を聞く方がずっと面白いですからねw
彼女のことが大好きな彼は、その日も楽しそうに映画デートの話をしてくれました。
『花束』とは現在公開中の日本映画、「花束みたいな恋をした」のこと。普段から邦画にあまり関心のない筆者はその略称でピンとこず、内容については他の作品の本編前予告で知っていた程度。
作品について少し調べてみると、どうやらそこそこのヒットを記録しているらしい。
あらすじを教えてくれた彼もまた、「色々考えさせられました」「感動しました」と言います。
こうした世間での反響を垣間見ると、「視聴者をこれほどまでに熱狂させるものは何なんだろう?」と気になってしまうのが映画ファンの性。
そうして先日、3月1日「映画の日」に、いよいよ筆者も『花束』デビューを果たしたのです。
(「映画の日」は毎月1日!大人も1本1200円で鑑賞できます!)
『花束みたいな恋をした』(2021)
都内で出会った若い男女の5年間を描くラブストーリー。主演は今を時めく菅田将暉×有村架純。Wikipediaによれば公式の(?)略称は『はな恋』だそうです。
Trailer :
Story :
東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦と八谷絹。好きな音楽や映画がほとんど同じだったことから、恋に落ちた麦と絹は、大学卒業後フリーターをしながら同棲をスタートさせる。日常でどんなことが起こっても、日々の現状維持を目標に2人は就職活動を続けるが……。 (出典:映画.com)
Staff :
●監督:土井裕泰
「いま、会いに行きます」(04)
「涙そうそう」(06)
「映画 ビリギャル」(15)
「罪の声」(20) 他
●脚本:坂元裕二
Cast :
●菅田将暉 as 山音麦
●有村架純 as 八谷絹
恥ずかしながら、スクリーンでこの2人を拝むのは今回が初めて。
2人とも顔が小さくて本当に羨ましい。
🎬 何が視聴者の心を掴むのか:
本作のターゲット
中身どうこう以前にまず印象的だったのは、観客層が圧倒的にヤング寄りであったこと。
筆者が鑑賞した午後一番の上映回では、おそらく30代は自分一人だったのではないかと思います。ちょうど試験や受験勉強から解放されたティーン達の来場が増えていることも大きな要因でしょう。
それに、見渡す限り皆カップルでしたね。独りで果敢にチャレンジした自分を褒めてあげたいくらいです。
ともあれ、製作・興行サイドの狙いは概ね成功している様子。(こういう見方をしてしまう時点でちょっとアレ)
では、本作が彼らヤング層に高く評価されているポイントとは一体何か?
筆者は普段、邦画、とりわけ若い男女の恋愛をメインに据えた作品を鑑賞することはまずありません。
その手の映画の多くは2時間TVドラマの領域を出ない、陳腐なシナリオと安っぽい演出で固めたものが多いという、たいそうな偏見を持っているためです。
ほとんど見てもない癖によく言うよ、と我ながら思います。
玄人面をしたいわけではないですが、日頃から多くの作品(もちろんラブストーリーも含む)に触れている筆者には、この「花束みたいな恋をした」は、1本の映画としてさほど魅力的なものには映りませんでした。
これだけの人気を博している中でこんな風に感想を述べるのも気が引けますが、自分の見方・感じ方には正直でありたい。何にせよこれはあくまで個人的な印象です。
何故気に入らなかったか、それを書き出したところで仕方がないので、本題に戻り、どうしてこの作品が多くの視聴者、とりわけ若者達の心をに響くのか、といったところに焦点を絞ってみたいと思います。
恋はナマモノだから
本作でフィーチャーされているのが、「恋人」という関係の有限性、平たくいえば、「恋はナマモノで、賞味期限がある」ということです。
おそらくコレは公開当初から広く知られており、「5年間の恋を描く」という紹介からもお察しの通りなので書いてしまいますが、麦と絹は物語の終盤で別れを迎えてしまいます。
大学時代、出会った当初こそ燃え上がるように互いへの好意を確かめ合う2人ですが、卒業や就職といったイベントとともに、自分たちが理想としていた暮らしを諦めることを余儀無くされ、惰性で関係を続けるようになってしまう。
まさしくタイトル通り、「花束みたいな恋」ですね。生花はナマモノで、いっぱいに咲く頃もつかの間、やがて寿命がやってくる。そうした人間関係のリアルをテーマの1つに据えた点に、本作の価値があるのだと思います。
このように書くと「悲観的だ」と捉えられてしまうかもしれませんが、作品は何も「花が枯れる」様ばかりを強調しているわけではありません。むしろ、花の一輪一輪が寄り集まって美しく束を作る様子をこまやかに描き出すことで、2人の関係を極めて魅力的で、強く共感を呼ぶものとして押し出すことに成功しています。
何よりも、全体のトーンを爽やかにまとめ、広く観客に受け入れられやすい1本に仕上げている点に巧さを感じますね。余計なヤダ味を残さないことは、日本映画においては非常に重要なことと思いますw
🎬 「特別」になりきれなかったあなたへ:
本作は恋愛映画であると同時に、「個」が「全」に溶けてゆく様をシビアに切り取った側面も持っています。
偶然にもポップカルチャーに対する好みを同じくして仲を深めた2人は、「その他大勢」とは異なった価値観のもと、好きなことを突きつめる生き方にプライドを持っていました。
しかし、モラトリアムが終焉を迎え、それまでの生き方が通用しないという考えがいよいよ現実味を帯びてくると、「2人の現状維持のために」と、かねてより憧れていた生き方を手放し、いわゆる「普通の」生き方を選び取ります。
彼らもやはり、「その他大勢」の「あるある」な事象に飲み込まれてしまったというわけです。
麦や絹と同じような考え方に1度でも取り憑かれてしまった経験のある人にとっては、後半の展開に心中穏やかではいられないでしょう。
やや偏屈な見方かもしれませんが、2人の生き方がおよそ「あるある」パターンであるからこそ、本作のストーリーが普遍的なものとして多くの視聴者の共感を呼ぶのだと思います。
恋愛云々よりも、特別になりきれなかった人々を優しく見つめるその視点こそが、筆者個人には大きく刺さったポイントとなりました。
似たような感想を抱いた方は少なくないと信じます。
🎬 Outro:
そういうわけで(?)、今月の「映画の日」は非常に有意義なものになりました。
近頃はAmazon PrimeやNetflixといった配信サービスを利用して、少しずつ邦画も見るようにしていますが、この分だとまだまだ掘り甲斐がありそう。
ともあれ、筆者もポップカルチャーに理解のあるガールフレンドを獲得すべく、日々邁進していく所存です。嗚呼、花束みたいな恋がしたい。
おしまい。